国際非電離放射線防護委員会(ICNIRP)の見解

ICNIRPは1998年、電磁界の健康影響に関する世界中の研究結果を精査の上、「時間変化する電界、磁界及び電磁界によるばく露を制限するためのガイドライン(300GHzまで)」を策定しました。

ICNIRPは2020年3月、無線周波(radiofrequency: RF、100kHzから300GHzまで)の領域の電磁界へのばく露制限に関するガイドライン改定版を発表しました*1。

この改定版は、関連する全ての科学文献の徹底的レビュー、科学ワークショップ、及び広範な意見聴取のプロセスの後に策定されました。このガイドラインは、100kHzから300GHzまでの範囲の電磁界ばく露による、科学的に実証されている全ての健康への悪影響に対する防護を提示するものである、とされています。

また、プレスリリースの中で「人々にとって覚えておくべき最も重要なことは、この新ガイドラインを遵守している限り、5G技術が害を生じることはあり得ない、ということです。」と述べています。

この改定版における主な変更点は、6GHzを超える周波数についてのものです。これには以下が含まれます。

・全身へのばく露に対する制限の追加

・身体の小さな領域への短時間(6分間未満)のばく露に対する制限の追加

・身体の小さな領域への最大許容ばく露の低減

ICNIRPのRFガイドラインの現行版と改定版における「基本制限」の比較を以下に示します。


[現行版(1998年)]

ばく露特性 周波数範囲 頭部及び体幹の
電流密度[mA/m2]
(二乗平均値)
全身
SAR [W/kg]
局所SAR(頭
部と体幹)
[W/kg]
局所SAR
(四肢)
[W/kg]
電力密度
[W/m2]
職業的ばく露 100kHz – 10MHz f/100 0.4 10 20 --
10MHz – 10GHz -- 0.4 10 20 --
10GHz – 300GHz -- -- -- -- 50
一般公衆のばく露 100kHz – 10MHz f/500 0.08 2 4 --
10MHz – 10GHz -- 0.08 2 4 --
10GHz – 300GHz -- -- -- -- 10

注記:

1. 全てのSAR値は、任意の6分間の平均値。

2. 局所SARは、ひとかたまりの同質の組織10gの質量で平均した値とする。この値を最大局所SARの評価に用いる。



[改定版(2020年)]

100kHzから300GHzまでの電磁界ばく露に対する基本制限、平均化時間は6分間以上

ばく露シナリオ 周波数範囲 全身SAR
[W/kg]
頭部・胴体の
局所SAR
[W/kg]
四肢の局所
SAR [W/kg]
局所吸収
電力密度
(Sab)[W/m2]
職業的ばく露 100kHz – 6GHz 0.4 10 20 NA
> 6 – 300GHz 0.4 NA NA 100
一般公衆のばく露 100kHz – 6GHz 0.08 2 4 NA
> 6 – 300GHz 0.08 NA NA 20

注記:

1. “NA” は “not applicable” を意味し、適合性の判断の際に考慮する必要はない。

2. 全身SARは30分間で平均化。

3. 局所SAR及び局所吸収電力密度Sabは6分間で平均化。

4. 局所SARは10gの立方体で平均化。

5. 局所Sabは身体の表面積4cm2で平均化。>30GHzでは、身体の表面積1cm2で平均化するばく露を4cm2での制限の2倍とする、追加的な制約が課せられる。


100kHzから300GHzまでの電磁界ばく露に対する基本制限、積算間隔は>0から<6分間


ばく露
シナリオ
周波数
範囲
頭部・胴体の
局所比吸収エネルギー量
SA [kJ/kg]
四肢の局所SA
[kJ/kg]
局所吸収エネルギー密度
Uab [kJ/m2]
職業的ばく露 100kHz - 400MHz NA NA NA
>400MHz - 6GHz 3.6[0.05+0.95(t/360)0.5] 7.2[0.025+0.975(t/360)0.5] NA
>6 - 300GHz NA NA 36[0.05+0.95(t/360)0.5]
一般公衆のばく露 100kHz - 400MHz NA NA NA
>400MHz - 6GHz 0.72[0.05+0.95(t/360)0.5] 1.44[0.025+0.975(t/360)0.5 NA
>6 - 300GHz NA NA 7.2[0.05+0.95(t/360)0.5]

注記:

1.“NA”は“not applicable”を意味し、適合性の判断の際に考慮する必要はない。

2. tは秒で表される時間で、ばく露自体の時間的特徴に関わらず、制限値は>0及び<360秒の範囲の全てのtの値に対して満足させられなければならない。

3. 局所比吸収エネルギー量SAは10gの立方体で平均化。

4. 局所吸収エネルギー密度Uabは身体の表面積4cm2で平均化。>30GHz超では、身体の表面積1cm2で平均化するばく露を、職業的ばく露については72[0.025+0.975(t/360)0.5]、公衆ばく露については14.4[0.025+0.975(t/360)0.5]とする、追加的な制約が課せられる。

5. t秒間に与えられる、何らかのパルス、パルスのグループ、一連のパルスのサブグループからのばく露、ならびにばく露の合計(非パルス化電磁界を含む)は、これらのレベルを超えてはならない。


日本では総務省が、高周波領域における電波防護指針の改定等に伴う制度整備を進めています*2。この改定における「局所吸収指針」は、上述のICNIRPのRFガイドライン改定版の「基本制限」と概ね同等の値になっています。


*1 International Commission on Non-Ionizing Radiation Protection (ICNIRP). Guidelines for limiting exposure to electromagnetic fields (100kHz to 300GHz). https://www.icnirp.org

*2 総務省 電波利用ホームページ「電波防護のための基準の制度化(関係法令) https://www.tele.soumu.go.jp/j/sys/ele/medical/system/