調査研究レポート

【2004-2-1】準反響環境における体内植込み型心臓ペースメーカーへの電磁障害の評価のための携帯電話による鉄道車両内の電界分布の推定

目的

鉄道車両内での複数の携帯電話を同時に使用すると、電波の反射とエネルギー集中のために予想外に高いレベルを生じるという懸念が、一部の人達から表明されています。

そのような環境を準反響環境(semi-echoic environment:SEE)と定義し、以下の仮説を設定し、その妥当性を検証しました。

仮説1:SEEでは伝送及び反射による損失が比較的少ないので、電波強度は携帯電話等の発生源から離れた観測点でも減衰しません。このため、SEEにおける電波強度は携帯電話の数に比例して増加します。

仮説2:SEEでは体内植込み型心臓ペースメーカーに対する22cmの安全指針は適用できません。つまり、SEE内では発生源がペースメーカー本体から22cm以上離れていても、電磁障害による心臓ペースメーカーの誤作動の可能性が示唆されます。

本研究では、正確な数値シミュレーション、ならびに、実物の鉄道車両と、800MHz及び2GHz帯の標準的なアンテナ・送信機を用いた実験を実施し、上記の仮説を実際の環境において検証しました。

方法

800MHz及び2GHzの標準ダイポールアンテナを用いて、実験及び数値解析のための鉄道車両内での伝搬特性を推定しました。この結果を数値解析の結果と比較し、乗客が乗り込む車両内での実際の複雑な条件にこの計算手法が適用可能かどうかを確認しました。この計算手法を用いて、車両内での電波強度分布を計算しました。この電界強度を、ペースメーカーに電磁障害を生じる最小間隔(800MHzでは15cm、2GHzでは2cm)における電界強度(参考レベル)と比較しました。

実験では、実際に運行している鉄道車両を用いました。車両の床上1500mmの高さに設置した送信アンテナから電波を放射し、標準的なダイポールアンテナと周波数分析器で、1m間隔で16区画に分けた車両内での電波強度を測定しました。

数値解析では、スーパーコンピューターを用いて、人体のような損失の大きい媒質が存在する車両内での電波強度を、FDTD技法により解析しました。

結果

コンピューターによるシミュレーション結果は、800MHz及び2GHzのいずれについても車両内で測定した実際の電波強度分布と良く一致していました。このことから、コンピューター解析によって車両内での電波強度を充分に予測できることができると結論付けられました。

車両内で携帯電話を1人の乗客が使用している場合と、5人の乗客が使用している場合をシミュレーションした結果、いずれの場合においても、また800MHzと2GHzのいずれの周波数についても、ペースメーカーに電磁障害を生じるような電波強度を超えることはありませんでした。この結果は、車両内のどの位置においても、電波強度が心臓ペースメーカーの作動に関する安全レベルを超えることはないことを示唆しています。

結論

本研究では、FDTD技法を用いたコンピューター・シミュレーションによって、鉄道車両内のようなSEE内での複雑な電波強度を正確に推定することが可能であることが示されました。鉄道車両内に存在する人体による電波エネルギーの吸収は無視できません。このため、電波が車両内に蓄積されることはないと考えられます。

本研究では、最大5人の乗客が携帯電話を同時に最大出力で使用しても、22cmの安全指針を守っている限り、ペースメーカーの誤作動は生じないと結論付けられました。実際には、列車内の電波強度はさらに減衰するはずです。すなわち、携帯電話を使用していない他の多くの乗客の存在は避けられず、彼らによって電波が大幅に減衰されるためです。

本研究で開発した手法は、エレベーターや金属壁で囲まれた空間のような、他の同様のSEEにおける問題に対しても適用可能です。

出典

Hikage T, Nojima T, Watanabe S, Shinozuka T. Electric-Field Distribution Estimation in a Train Carriage due to Cellular Radios in order to Assess the Implantable Cardiac Pacemaker EMI in Semi-Echoic Environments. IEICE Trans Commun. 2005; E88-B:3281-6.

WHO研究データベース

http://www.who.int/peh-emf/research/database/emfstudies/viewstudy.cfm?ID=1147