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【2000-2-1】1.5GHzの携帯電話電波へのばく露がマウスの脳における突然変異の誘発に及ぼす影響についての研究

目的

本研究では、1.5GHzの携帯電話電波へのばく露が、脳のDNAに突然変異を誘発するかどうか、また、もし誘発するならば、その突然変異はどのような種類のものかを、突然変異の指標であるlacI遺伝子を導入した、雄のビッグ・ブルー・マウス(BBM)を用いて検討しました。

方法

我が国の標準規格であるPDC方式の携帯電話に用いられている1.5GHzのTDMA信号を、アンテナの直下4mmの位置に頭部を固定したBBMマウスに対し、比吸収率(SAR)0、0.67、2.0W/Kgで、90分/日、5日/週、4週間にわたり局所ばく露しました。ばく露開始から2週目及び4週目に、各5匹のマウスから摘出した脳の部位ごとに標本を作成し、DNAを抽出して、lacI遺伝子配列の突然変異の分析を実施しました。また、同遺伝子の突然変異の結果として生じるグリア細胞の増殖及びアポトーシスの分析のため、免疫組織化学的分析を実施しました。

結果

低ばく露群(0.67W/kg)には偽ばく露群(電波をばく露させない場合)と比較して、ばく露開始から2週目及び4週目における突然変異(mutation)、及び4週目における突然変異体(mutant)の発生頻度の増加傾向が見られましたが、統計的に有意ではありませんでした。高ばく露群(2W/kg)には偽ばく露群と比較して、lacIの突然変異及び突然変異体の発生頻度に有意差は見られませんでしたが、4週目には僅かな増加が見られました。検出された突然変異のうち最も多く見られたのは、CpG部位におけるG:CからA:Tの遷移(transition)でした。これは、突然変異が自然発生であることを示しています。各群におけるlacIの突然変異スペクトルには差はありませんでした。ばく露群には突然変異の明確なホットスポット(多発部位)はありませんでした。高ばく露群及び低ばく露群では、偽ばく露群と比較して、欠失突然変異が僅かに増加していましたが、その差は有意ではありませんでした。また、ばく露群の脳組織には、神経膠症または変性病変といった、グリア細胞の神経組織病理学的な変化は見られませんでした。

結論

本研究では、1.5GHzの電波へのばく露による、BBMの脳のDNA損傷やグリア細胞の増殖に対する直接的な影響は観察されませんでした。この知見は、これまでの報告と一致するものです。従って、我が国では、携帯電話使用による電波ばく露が、脳腫瘍の発症を直接的に誘発する可能性は大きいものではありません。疫学研究や動物実験のデータは、携帯電話使用に起因する電波ばく露には、脳腫瘍発症のリスク上昇との関連はないことを示唆しています。本研究のデータも、この結論を支持しています。

出典

Takahashi S, Inaguma S, Cho YM, Imaida K, Wang J, Fujiwara O, Shirai T. Lack of mutation induction with exposure to 1.5 GHz electromagnetic near fields used for cellular phones in brains of Big Blue mice. Cancer Research. 2002 Apr 1;62(7):1956-60.
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/11929810

WHO研究データベース

http://www.who.int/peh-emf/research/database/emfstudies/IEEEviewstudy.cfm?accessionNo=1637